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いつか自分が撮っている被写体になれたら
こちらではなくあちら側だったらとふと想う

カメラをおいて街を歩く
そんな時間が必要かもしれない


ときには自分のペースではなく
愛犬を連れて歩くのもいい

自分の行きたい方向と愛犬の行きたい方向
その違いがまた楽しいはずだ


昨日読んだ本
今朝食べたクロワッサン
指先が記憶しているパスワード
すべてを一度リセットする


日常から遠く離れて





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その劇場はLa Chapelle駅からほど近い場所にあった。


「それにしても古い劇場ね」

「ナポレオン3世の時代にできたらしいよ。
パリにはもっと歴史が古い劇場があるけど、
現代風に綺麗に改修されてるからね。
それに比べてここは廃墟一歩手前の感じがする」

「何か演奏を聴きにきたというより、劇場を見にきた感じね。
タイムスリップでもした気分。
随分街の中心からも離れてるし、
こんなふうに残されているのが嘘みたい」

「注目されずに放置されたまま時だけが過ぎたんだ。
歴史の標本みたいな劇場かもしれない。
-もうすぐ開演だよ、携帯はオフにした?」

「気分はオフだけど・・・」


こうして独自の雰囲気に包まれた会場で、
ほどなくベートーヴェンの三重奏が始まった。




Théâtre des Bouffes du Nord (ブッフ・ド・ノール座)
1876年パリ10区に建てられた劇場。経営不振から1952年に閉鎖。
1974年にはPeter BrookとMicheline Rozan指導のもとに生まれ変わるが、
資金難のため内外装はいっさい改装されなかった。
2010年には、Olivier ManteiとOlivier Poubelleが引き継ぎ、現在に至る。




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ホテルに滞在するか、誰かの住まいに招待されないかぎり、
パリで建物の内側にある中庭を見ることは難しい。

ここはHôtel de Brancasという、1710年からある建物の中庭。
当時のディテールがどれほど残っているのかは知る由もないが、
パリにあってこの落ち着いた緑の空間を得られているのは価値がある。

建物そのものには当然そこに住んだ人の考え方や嗜好が反映されがちだが、
「中庭」という存在は、それとは異なるあゆみを感じさせてくれる。


扉を開けて6つの石段を降りる。
数百年の間、どれだけのひとがこの中庭へ降り立ったのだろうか。

主人であった侯爵、その家族、使用人、そして招かれた客人たち。

改修される機会も少ない中庭には、
何かそこに長い時の空気が沈殿しているかのようだ。



古い樹木に話しかける。
しばらくすると微かに枝を揺らし彼は応えてくれた。

「 きみは何処から来たんだ。
もう何年も庭師以外とは話をしていないが、
この老いぼれの木に話しかけてくるとは珍しい客人だ。

ここにいると街の様子はわからないが、
ひとの悲しみや喜びは手に取るようにわかる。

今は平和なのかもしれないが、以前のような
喜怒哀楽はなくなってしまった。
ひとはもっと感情をさらけ出したほうがいい。

いまは振り返らず、前に進むことだ。
時がきたら、またいつかこの場所を訪ねるといい。
その時きみは老人になっているかもしれないが。 」


古い樹木はそう言って、手を振るかわりに
枝の間から心地よい風をおくってくれた。


中庭には、おとぎ話がよく似合う。






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2018年 モンパルナスタワーが見えるレンヌ通り。


一見ひと昔前と何も違っていないように見えるが、
店舗や街を歩く人たちの流れは随分と変わった気もする。


道端で煙草を吸っているひとも少なくなった。
思い返すとあちこちのカフェにあったTABACという文字。
いつのまにか何処かへ消えてしまった。
煙草のけむりも自由という枠から排除される、
パリもいまではそういう時代なのだろう。


ピカソ、モディリアーニ、フジタ、ザッキン、シャガールなど
数えきれない画家や彫刻家、芸術を志す人々が住んだモンパルナス。

彼等が集ったカフェや消えつつある面影。
この場所の古き良き時代に憧れるのは自分だけだろうか。


月日は静かに、そして確実に眼の前を通り過ぎていく。





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