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パリ モンパルナス駅から線路沿いに少し歩いた場所。
そこにEglise Notre-Dame du Travail (労働の聖母教会)という
聞きなれない名前の教会がある。

鉄骨が張り巡らされた簡素な内装と地味な佇まいの教会だ。


古い教会内を見たあと、私は外の裏手にあるベンチに
しばらくの間座っていた。

ぼんやりとこの教会が建てられた頃を想像してみる。

1900年頃。
パリは万博で活気に満ちていたことだろう。
多くの建物が新築され、それに伴い大勢の労働者がかり出されたはずだ。
街の中心部に住む階級の高い人々は別にして、
低賃金の職人や労働者たちは、こうした線路沿いの地価の安い場所に
集まっていた。
そこには生活があり、苦難もあったはずだ。
この教会が求められた理由はそこにある。

ただここには裕福な寄進者など存在するはずもなく、
こうした体育館のような教会を建てるしかなかったのかもしれない。


ここへ通っていた人たちは何を祈っていたのだろうか。


働く。生きる。そして祈る。

ひとは何のために働くのか。
誰のために働くのか。
先に喜びはあるか。悲しみは消えるのか。
家族と故郷と与えられた僅かな恵みに感謝する。
そして祈る。


華やかなパリの側面には、
人知れずこうした慎ましい場所が隠れていることを
記憶に留めておきたいと想った。

大きな樹木が風に揺れていた。
やがてここにも春がくる。




※ノートルダム・デュ・トラヴァーユ(労働の聖母教会)
モンパルナス地区に定住した土木労働者や職人のために1902年に建てられた。





 【No.146】Panhard  2018/03/23 (Fri)
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深夜、左岸にある路地の一角に
これまで見たことのない車が停車していた。

丸みを帯びた曲線のデザインが美しい。

見たことのないというのは大袈裟かもしれないが、
自分の記憶の中では確かに目にした事はなかった。



後日気になって調べてみると、記憶にないのは当然だった。
既にこの車のブランドは1967年に生産を終了している。

パナール(Panhard)という
フランスが生んだ自動車メーカーの車だった。


生産終了後、すでに50年以上の年月を経ている車が
街中で普通に停まっていた。
しかもガレージに保管されているのではなく、
今もこうして愛用されている。


古い建物と現代が交差するパリ。
パナールもまたこの街に溶け込む。


それはジャズトランペットのミュート音のように
おとなの匂いがした。




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ポルト・ド・ヴァンセンヌの駅から地上にでると、
道が続く向こう側に2本の柱※が見える。

あの先はナシオン広場だ。
遠い昔、自分が立っている場所はパリではなく、
あの場所から向こう側がパリだった。
さらに昔はバスチーユ辺りからがパリだったという。


私たちが思っている以上に小さな都市だったパリ。

だが、その宝石のような都市に
ヨーロッパの他の国々、別の大陸からも夢を追いかけ人々が集まった。

そして在るものはパリという舟で帆をたなびかせ、
在るものは静かに舟を去っていった。

「たゆたえど沈まず」

パリの市民憲章にもなっているその言葉こそ、
この地の志そのものが表されている。


ひとは皆、限られたいのちを生きるしかない。
そして残るものへ、何かを伝え去っていく。

パリは私たちに何を教えているのだろうか。


見つめる先には、
シンボルとなった塔が微かに映る。


それは求めるもの、全てを受けいれるように。






※1785年建立。この場所でルイ14世が王妃を迎えたことから
「王座の円柱」と呼ばれた。2本の円柱の上には歴代王「サン・ルイ」、
「フィリップ・オーギュスト」の像が置かれている。


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主人と一定の距離を保ちながら散歩する犬がいる。
双方が信頼しているからか繋がれている様子はない。

フレンチブルドックは愛嬌があり、その憎めない表情がかわいい。
パリでも時折その姿を見かける。



2008年にこの世を去ったイヴ・サンローランの愛犬もこの犬種だった。

デザインにのぞむ彼の凛々しい表情が印象的だが、
一方で愛犬と一緒に笑顔を見せる優しい表情も写真に残されている。

彼の愛犬はMoujik(ムジーク)〔ロシア語で農民〕という名前だった。
仕事場でも一緒にいることが多かったようだ。


イヴ・サンローランが作り上げたファッションのブランド。
そしてその傍らにいた「農民」。


何かそこにパリが育んだエスプリを感じる。




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パリで数十年ぶりに降った大雪も、街ではすっかりその姿を消している。
ただセーヌはいつになくその水かさを増していた。


私たちには嬉しくない風景も、鳥たちにとっては
別なのかもしれない。

普段は目にしない白鳥が河岸で羽を休めていた。


いつもとは違うセーヌの表情。



日も暮れよ、鐘も鳴れ
月日は流れ、わたしは残る
ーアポリネールの詩よりー


自らの力では立ち向かえない
自然に惑わされる日々。


いつの日か残されるのは私たちではなく、
ここにいる白鳥たちのような気がした。






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パリに到着したのは夕刻だった。
ホテルにチェックイン後、街外れにあるジャズクラブに向かう。

地下鉄駅から地上に出ると冷たい空気が通りぬけた。
パリの2月は想像以上に身体にこたえる。


道すがら暮れかかる静かな坂道の先に
月が顔をだしていた。

見慣れたパリの下町風景だったが、何かそこに僅かな温もりを感じて
カメラを向ける。

ここにはどうみても旅行者の姿はない。



冷たさと温もりと月。
電球色の街灯が夜に溶け込む。


こうしてまた短い旅の一日が始まった。






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パリ ルーヴル美術館にほど近い一角。
馬に乗り旗を掲げる女性像。
金色に輝くその像が向かう方角には
モデルとなった女性がかつて目指した地がある。
オルレアンだ。


ジャンヌ・ダルク。
その名前は歴史を越えて受け継がれ、聖人となった。


流されていく自分がいるとき、
変わらぬものにすがろうとするのが、ひとの心なのだろうか。

何かに突き進む勇気と強い信念。



今尚世界の国々で、声を上げ繋がるひとたちが後を絶たない。

ひとは皆、それぞれが持つ心の何処かに
先頭を行くジャンヌ・ダルクを追い求めているのかもしれない。




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