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 【No.134】師走の月  2017/12/25 (Mon)
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三田の駅から数分歩き、細い路地に入った。

古風な赤い暖簾をくぐり、カウンターのみ8席ほどの店へ入る。

まん中の空いている席に目線をおくると、
中にいた女主人が話しかけてきた。

「もう定食は出来ないけど」

「かまいません、いいですか?」

「8時30分までだけど」

時計はもうすぐ8時になろうとしていた。

「大丈夫です」

そう言って背広姿の自分たち二人は
ほかの客の間に座った。


メニューはいたって少なかったが、
焼餃子と水餃子、それぞれ一皿ずつ注文した。

オーダーして私たちの前に餃子が出てきたのは
15分ほどしてからだったろうか。
女主人ひとりでの切りもりなので苦にはならなかった。


一皿には6個、二種類の餃子を連れと話しを交えながら交互につまんだ。

皮の部分は厚みがある。
見た目は特に珍しい餃子ではなかった。
あえて言うなら普通のスリムな三日月型とは違い、
こんもりとした半円形をしているのが特徴的だ。

しかしひととき口に入れると、
そのふんわりとまろやかな食感に気付かされる。
ニンニクとニラ、そして豚肉との絶妙なバランス。
肉汁が口の中で弧を描く。

一本の瓶ビールと共に、ふた皿の餃子が15分ほどで腹に消えた。


時計の針はすでに8時30分を回っていた。


「すみません、会計を」
食事をしながら実は営業時間が8時までだったということを知り、
女主人に申し訳ない気がした。


「美味しかったです」
「次回はもう少し早い時間に来ます」

それを聞いた女主人は初めて笑顔を見せながら釣り銭を手渡してくれた。



店を出てから振り返ると、
古くて温かな昭和の佇まいがそこにあった。

そういえばこの店には名前がない。
暖簾に「餃子」という文字が書かれているだけだ。


店名が必要ない訳は、この店を訪れるとわかる。

あえて名前を名乗らず、
必要以上に媚びることなく、
出来ることを丁寧に行い、
目立つことを望まない。

そんな誰しも出来るようで、
できない仕事、生き方がここにある。



帰り道、月が店を照らすかのように
ほんのりと輝いていた。

師走の月が餃子の形に見えた。





 【No.133】colette  2017/12/18 (Mon)
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美しい砂浜に一羽の孔雀が降り立つ。
海辺に孔雀は不釣合いだったが、
皆一様にその美しさに見惚れ話題となった。

そして時が流れ、孔雀にも砂浜を去る日がきた。



2017年12月20日、パリ サントノーレ通り213番地。
「コレット 」が20年という月日に幕を閉じる。

ファッション、トレンド、セレクト。
パリにあってその存在はシンボルとも呼べる店だった。

パリに行くたびに必ず一度はここを訪れ、店内を見てまわった。
訪れるたびに、前とは違うディスプレイや商品のラインナップに
感心させられた。
閉店を惜しむ業界のひとも多いというが、自分にとっても
大切な友人が去っていく気がして名残惜しい。



時が経てば、また違う鳥がこの砂浜に降り立ち、
人気を集めるかもしれない。

ただこの場所に降り立った一羽の孔雀の存在を
忘れることはないだろう。




※1997年「コレット」はコレット・ルソーにより設立。デザイナーブランドのコレクションをはじめアートや音楽など、卓越した視点で選ばれた商品を展開し人気を集める。カール・ラガーフェルドをはじめ、数多くのアーティストにも支持者が多い。



 【No.132】木立ち  2017/12/13 (Wed)
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季節が巡ることは、日々の生活をおくる私たちに
何かを伝えようとしている。

同じ繰り返しのように感じていても、
少しずつ何かは変化している。

立ち枯れた樹木、成長した枝と新たな芽吹き。
取りまく気温も昨年とは随分と違っている。

それは私たちにも当てはまる。
しばらく会っていない人が亡くなる、
近くにいた仲間が転勤する、子どもが生まれる。

テレビの見方、雑誌の買い方、会話の仕方。
世の中が変化することに、否応なく私たちも合わせて
暮らしている。



年の瀬が近づく。

来る年も何かが変わるだろう。

ただ、こころの中では
変わらないものを
抱き続けようと感じている。




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街角でつい後ろを振り返ってみることがある。

それは香りの旋律を感じた時だ。



ブランドのバッグや靴などは積極的に取り入れる日本人女性も
香水やオー・ド・トワレとなると急に消極的になる。

人種として体臭が弱い日本人は、そもそも匂いというものに敏感な気がする。

どちらかというと香りそのものを嫌っているひとも多い。
ある時は蔑むように「臭い」という一語で評価しがちだ。

では本来の日本人はというと、平安時代の昔から貴族を中心に
お香をくゆらせ、部屋や衣服へ「移香」することを楽しんでいた。

そうした歴史があるものの、香りの文化は日本に根づかないままのようだ。



決して強い香りでなくていい。
日本人に合った、ほのかな香りとでもいうのか、
そのひとに合ったイメージの香りを纏うのも
おしゃれの一つではないだろうか。


それこそが自分だけの旋律を奏でることだから。





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雑誌やテレビでラーメン店が紹介されると、
日本人のラーメン好きがよくわかる。
街中でもいたるところに店舗がある。


ロンドンの繁華街にも数は少ないがラーメン店がある。
そしてそこにも何故か日本人が集まる。
理由はいくつかあり、価格が他のレストランに比べて安いこと
(日本と比べると決して安くはないが)、
食べ慣れていること、日本語が通じることなどだ。
味といえば並といったところか。


笑ってしまうのは、何人かの日本人旅行グループが
自由行動で昼食時に同じラーメン店で偶然に顔を合わせてしまうこと。
ガイドブックを片手に結果的に同じ道を選んでしまう。
安心ということに弱い、いかにも日本人らしい行動と言える。
かく言う自分も友人と別々に観光していた際、
たまたま入ったラーメン店で顔を合わせてしまったことがあり
苦笑いしてしまった。


英語が通じること、時間や決められたことを守ること、
これらはロンドンが馴染みやすい理由かもしれない。



自分にはあまり魅力的に感じられなかったロンドンだが、
休日の東京で昼食時にひとりラーメン店にはいると、ふと思い出す。


この季節は東京よりも気温が下回るロンドン。
寒空の下いまも誰かが似たようなものを食べているのだろうか。





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