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 【No.63】階下へ  2015/11/14 (Sat)
▲⭐️R0012649

陽だまりを求めて近くの住人達が集うパリ モンソー公園。
その公園に隣接して建つ「ニッシム・ド・カモンド美術館」

この美術館で見るべきものは名画ではない。
そこに住んでいた人たちの生活、そしてその生活を支えた厨房だ。

観光で有名レストランに入っても、そこの厨房にまで立ち入ることはないと思うがここでは前世紀に作られた当時の贅を尽くした設備をそのまま見ることができる。

美しく磨かれた銅鍋に鉄製の巨大なオーブン。
重厚感のある鉄の一面にはparisの刻印が光る。

タイル貼りがきれいな厨房に面した部屋では主人に出すメニューをここで書き記したであろう痕跡が見てとれる。それは昨日までそこに人がいたような温もりを感じる空間だ。
厨房に隣り合わせたもうひとつの部屋は使用人の食堂。
家庭的な雰囲気のなかに、在りし日の静かな会話が聞こえてきそうだ。

階段を上の階へ進むと、静かな住まいが現れる。
決して広すぎない考えられたいくつかの部屋には、主人が愛した調度品が今もそのまま呼吸をしている。タピスリーや絵画、食器のコレクションでさえこの家のために存在しているかのようだ。

銀行家であったモイズ・ド・カモンド伯爵。
若くしてこの世を去った息子「ニッシム」を偲び、この館の名前に加えたという。

華やかなブルジョワの生活模様といえばそれまでだが家庭内では翻弄された運命が繰り返される。

ひとはお金という大きな力で相当の満足を得ることができる。1910年に建てられたこの邸宅を見ればそれには疑いがない。
ただ見るべきは上階の華麗な生活感ではなく、階下に築かれた必要不可欠な厨房だという気がしてならない。

主人が最期まで求めた家族の幸せは、階下にこそあったのではないだろうか。




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