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 【No.25】音の回想  2014/05/26 (Mon)
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20代後半に暮らしたマンション。
そこから見える隣の階下には比較的広い庭があり、そこには弓道場があった。
境には背の高い竹が繁っていて、的だけが少し見える。

休日になると、矢が的に当たる音で目を覚ますことが時折あった。
響く音ではないが、矢が放たれた際の弓の音と的に当たるパーンという微妙な音だ。

自分は何故かこの音が聴こえる休日の午前中がとても好きだった。
停滞した空気の真ん中を澄んだ透明な空気が突き進む。
その一定のリズムと和の音に続く静寂感が気にいっていた。

そんな弓道場の音もマンションを引越してから聴くことがなくなった。

雨上がりの休日、ふとあの頃の「音の回想」が湧き上がる。
そして一度手から放たれた矢は戻らない。



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幼い頃、田舎で育った自分は蒸気機関車が好きでよく駅まで連れて行ってもらった記憶がある。
それは小学生の頃まで続いただろうか。

すでにその頃には蒸気機関車は「消えゆく」存在だったが、家で朝日ソノラマという本に付属していた赤いソノシートというレコードを何度も聴いていた。
ソノシートに入っていたのは蒸気機関車の汽笛と車輪の音を録音しただけのものだったが、夢中だった自分にとってはそれで十分だった。

D51やC62、特に「デゴイチ」という愛称はその頃の蒸気機関車では花形の存在だった。ちなみにCと頭につくのは3つ、Dというのは4つ大きな車輪がついているからである。
そんな蒸気機関車熱も何故か中学生になるとすっかり冷めてしまい、映画や音楽へと興味が移ってしまった。

時代が移り、東京でも鉄道マニアと呼ばれる人たちが駅のホームで写真を撮っているのをよく見かける。
自分もあのまま熱が冷めていなかったら、同じようにカメラを片手にホームで佇んでいたかも知れないなとぼんやり思った。



 【No.23】Canterbury  2014/05/11 (Sun)

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ロンドンから南東へバスで2時間ほど行ったところに大聖堂の街カンタベリーがある。

大聖堂目当ての観光客も多いが、幾つかの学校があるので学生達の姿もよく見かける。
自分も2ヶ月ほどホームステイをして、この街の語学学校へ通っていた。
学校へはヨーロッパ各国から学生が集まり年齢も様々だったが、気の合う仲間とそれなりに楽しい日々をおくった気がする。

街の中心から少し外れると芝生のきれいなグランドが広がり、周囲には大きな樹木があった。秋には栗のような実をつける。
住宅街はセミデタッチドハウスという2軒が一棟になった家が無数に並んでいて、どの窓を見ても同じテレビの位置から同じ番組が流れていた。

この国では、はみ出さないこと、変わらないことを大切にしている。
彼らの美しい芝生を維持する姿勢に国民性がよく表れている。

語学学校で隣の席によく座っていたスペイン人のマリアという女の子が、いつも疲れ気味であまりうまく皆に溶け込めずにいた自分のために、授業中に辞書へ優しくメモを残してくれた。


「SMILE ALWAYS!」


今もこの言葉を想い返すと、学校の窓から見えた大聖堂のシルエットとマリアの笑顔が脳裏から離れない。


▲⭐️P4260118

それは何処か懐かしさと共に求めていた空気だったのかもしれない。

仙台、2014年初夏。長袖のシャツ一枚が心地よく身体に感じられた。新緑の隙間を風が通り抜ける。

仙台に来たのは初めてだ。震災後の新しいオフィスやマンションは過去を覆っていたが、欅の樹木が語る長い年月と文化の薫りは肌で感じ取れた。

蛇行する広瀬川がまばゆく光る午後、わたしは散策がてら川沿いにあるカフェでぼんやり外を見つめていた。
入れかわり来店する客と片付けにまわる何人かの女性。学生の街ならではの若さが感じられる。
店内にはセンスのよい落ち着いた選択の本が所々に置かれていて、緩やかに響く音がタンノイのスピーカーから聴こえてくる。濃いブルーのサランネットがカフェに良く溶け込んでいる。

店内に差し込む斜光が長くなった頃、ようやく店から出てホテルへと向かった。
途中、東北大学の夕陽に照らされた並木にカメラを向ける。
ひととき深呼吸をしたあと、澄み切った空気に1/160秒、瞳を閉じた。



 【No.21】花の5月  2014/05/01 (Thu)
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パリへ行くには5月がいい。
市内のいたるところに花のアーチが見られ街路樹にも小さな花が顔をのぞかせる。普段は厳しい表情で道ゆく人も、この季節ばかりは微笑みを隠せないようだ。軽めのワンピースやシャツ1枚で駆け抜けるパリッ子たちを見かけると、こちらまで走りたくなる。

住宅街でよく見かけるのが「藤」。
ツルの枝に葡萄のように花が垂れて、白や薄紫の色合いがアイボリーの石壁に華やかさを演出する。
日本の藤に比べると花が大きくゴージャスな印象で、長く伸びるツルを細いワイヤーで上手に壁面へレイアウトしているのは見事だ。

花の5月、時間が許すなら出かけない理由はない。



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