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 【No.139】akogare  2018/02/03 (Sat)
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欲しいものがあるとき。


何度も繰り返しその姿や形を見ては、
手に入れたときの情景を頭に浮かべる。

それは自分にとって本当に必要なものか。
明日も明後日も、一年後も必要なものか。
冷静に考える。

こうして悩んだり嘆息をもらすとき、
まだ先には希望がある。


そして恋愛にも似た
ひとときの憧れというその過程にこそ、
曖昧な幸せがある気がする。




 【No.134】師走の月  2017/12/25 (Mon)
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三田の駅から数分歩き、細い路地に入った。

古風な赤い暖簾をくぐり、カウンターのみ8席ほどの店へ入る。

まん中の空いている席に目線をおくると、
中にいた女主人が話しかけてきた。

「もう定食は出来ないけど」

「かまいません、いいですか?」

「8時30分までだけど」

時計はもうすぐ8時になろうとしていた。

「大丈夫です」

そう言って背広姿の自分たち二人は
ほかの客の間に座った。


メニューはいたって少なかったが、
焼餃子と水餃子、それぞれ一皿ずつ注文した。

オーダーして私たちの前に餃子が出てきたのは
15分ほどしてからだったろうか。
女主人ひとりでの切りもりなので苦にはならなかった。


一皿には6個、二種類の餃子を連れと話しを交えながら交互につまんだ。

皮の部分は厚みがある。
見た目は特に珍しい餃子ではなかった。
あえて言うなら普通のスリムな三日月型とは違い、
こんもりとした半円形をしているのが特徴的だ。

しかしひととき口に入れると、
そのふんわりとまろやかな食感に気付かされる。
ニンニクとニラ、そして豚肉との絶妙なバランス。
肉汁が口の中で弧を描く。

一本の瓶ビールと共に、ふた皿の餃子が15分ほどで腹に消えた。


時計の針はすでに8時30分を回っていた。


「すみません、会計を」
食事をしながら実は営業時間が8時までだったということを知り、
女主人に申し訳ない気がした。


「美味しかったです」
「次回はもう少し早い時間に来ます」

それを聞いた女主人は初めて笑顔を見せながら釣り銭を手渡してくれた。



店を出てから振り返ると、
古くて温かな昭和の佇まいがそこにあった。

そういえばこの店には名前がない。
暖簾に「餃子」という文字が書かれているだけだ。


店名が必要ない訳は、この店を訪れるとわかる。

あえて名前を名乗らず、
必要以上に媚びることなく、
出来ることを丁寧に行い、
目立つことを望まない。

そんな誰しも出来るようで、
できない仕事、生き方がここにある。



帰り道、月が店を照らすかのように
ほんのりと輝いていた。

師走の月が餃子の形に見えた。





 【No.132】木立ち  2017/12/13 (Wed)
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季節が巡ることは、日々の生活をおくる私たちに
何かを伝えようとしている。

同じ繰り返しのように感じていても、
少しずつ何かは変化している。

立ち枯れた樹木、成長した枝と新たな芽吹き。
取りまく気温も昨年とは随分と違っている。

それは私たちにも当てはまる。
しばらく会っていない人が亡くなる、
近くにいた仲間が転勤する、子どもが生まれる。

テレビの見方、雑誌の買い方、会話の仕方。
世の中が変化することに、否応なく私たちも合わせて
暮らしている。



年の瀬が近づく。

来る年も何かが変わるだろう。

ただ、こころの中では
変わらないものを
抱き続けようと感じている。




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街角でつい後ろを振り返ってみることがある。

それは香りの旋律を感じた時だ。



ブランドのバッグや靴などは積極的に取り入れる日本人女性も
香水やオー・ド・トワレとなると急に消極的になる。

人種として体臭が弱い日本人は、そもそも匂いというものに敏感な気がする。

どちらかというと香りそのものを嫌っているひとも多い。
ある時は蔑むように「臭い」という一語で評価しがちだ。

では本来の日本人はというと、平安時代の昔から貴族を中心に
お香をくゆらせ、部屋や衣服へ「移香」することを楽しんでいた。

そうした歴史があるものの、香りの文化は日本に根づかないままのようだ。



決して強い香りでなくていい。
日本人に合った、ほのかな香りとでもいうのか、
そのひとに合ったイメージの香りを纏うのも
おしゃれの一つではないだろうか。


それこそが自分だけの旋律を奏でることだから。





 【No.128】記憶  2017/11/20 (Mon)
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忘れられないことがある

また誰しもいつの間にか忘れていることがある

記憶には強さがあるのだろうか


数十年という限られた年月の間
どれだけの経験が忘れ去られたのか


形あるもの ないもの
ひとの命が絶えて残されるもの

消え去らないものには
生命の強さがあるのだろうか



足もとにある落ち葉の輝きは
生きる源を絶たれたのちも
最期の美しさを届けてくれている





 【No.121】折り紙  2017/10/01 (Sun)
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海外へ旅行した際、親しくなったひとへ折り紙を
渡したことはないだろうか。

自分も過去に鶴の折り紙を上げたことがある。

そのへんにあった紙きれで簡単に折られた鶴。
果たしてこんなものでと思ったものだが、
鳥の造形に変化した小さな紙きれを嬉しそうに
手にとってくれた。


丁寧に折られ温もりを感じる紙の鶴。

見返りを求めない愛とでもいえるのか、
負担にならずさりげないのがいい。


あまり出しゃばらず控えめな優しさ。

数字に置きかえると1ではなく0から1までの間。

その間に美しさがあるような気がする。




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「そのゲームはいつ終わるの?」

「わからない。いつも途中で中断しては、またその途中から始まる。」

「終わりがないってこと?」

「いや、いつかは終わりがくる。自分がそこに浸っているだけで、
 やめようと意識すれば、そのときが終わりだよ。」

「そうしてゲームに浸っている時間に大切なものを失っていると思わない?」

「そうだね、失っている時間は多いと思うよ。」



自分は無意識のうちに時間を無駄にしているのだろうか。
そんな会話のあと、スパイラルに迷い込んだような空白の時が過ぎる。


休日の午後、カフェから赤いスポーツカーが見える。



ひとは時として快楽の迷路に迷い込む。
そしてある時は静から動への欲求にとらわれる。


自分の心にスポーツカーは存在しているだろうか。



今日という一日をどう生きるか。

求める一枚の写真は、そんな一日の何処かで待っている。





 【No.114】Le Pain  2017/08/17 (Thu)
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香ばしく焼けた、ひときれのパン。
お米が主食の日本では、パンの焼きたてを食べる機会は未だに少ない。


パリでは朝からパン屋に行列ができる。
焼きたてのパンを求めて、普段は我慢するのが嫌いなパリっ子が
このときばかりは大人しく並んでいるのが痛快だ。


店によっては東京のパン屋も十分においしくなったが、パリで食べるパンとは
根本的なレベルが違うような気がする。

このことは逆の立場を考えれば分かりやすい。
お米なら電気釜ではなく、昔ながらの大きな鉄釜で。
ゆすぎは慎重に、水はきっちりと計量。
選んだ米を使用して、少しかために。
パリでこうした白飯を口にするのは難しい。

パンであれば相当の注意点があるはずだ。
しかもパン屋によってはそれぞれレシピが違う。


何はともあれ、美味しく焼けたパンを食べる幸せは何物にも代え難い。
まずはその甘い香ばしい香りと、焦げる手前の表面の色だ。
そして樹皮のように硬い外側に反して、
内側のコットンのような歯ごたえと弾力のある中身。
ひときれ口にした際の、鼻から抜けるような微かに温かい穀物の湯気。
これこそが美味しいパンを味わう瞬間かもしれない。



今朝の我が家の食卓では、トースターで焼かれた食パンが待ちかまえていた。
もちろん、ごく普通に。




 【No.111】Seesaw  2017/07/19 (Wed)
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ひとりで遊ぶことの多かった自分は、
子どもながらにこの遊具に興味をもてなかった。
というか、あまり乗ったことがなかった。


誰もいない公園でシーソーを見つめる。


軽い方が上へ、重い方が下へ。
当然だが、それは重力を目で見るということだ。
現実を直視するような「力」というバランス。

数値化、基準、評価。社会で必要とされるものには数字がともなう。
見方によっては競争社会での「振り分け」ともいえる。


一方で写真や絵画は数値では計れない。
もちろん売ることで評価額は決定するという見方もあるが、
売ることを目的としない作品があるのも事実だ。


作家は作品を通してどれだけのメッセージを伝えることができるか。
目に見えない「心の中のシーソー」を傾けることができるかが重要だ。



公園のシーソー。

恋人達なら、こんな楽しい乗り物はない。
相手がいれば、今でも恥ずかしがらず乗ってみたいと思う。
自分には訪れそうもないシーンだが。




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夏の休日に
裸足で聴くガーシュウィン


午後四時のヴィシソワーズ

よく冷えていることが大切である
器もまた同じだ

滑らかな口あたりと
野菜の奥深い甘さ


冷たく白いビロードが
身体のなかへ溶けていく





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