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 【No.73】Melody   2016/05/13 (Fri)
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1971年に公開された映画《小さな恋のメロディ》。
45年の年月が過ぎた今も、映像と音楽は
記憶の何処かにしまわれている。


風がそよぐようなビージーズの曲「Melody Fair」。
そして主人公を演じるトレーシー・ハイドが
ガラス瓶を手に街を歩くシーンが印象的だ。

手にしている金魚は一度ガラス瓶から放たれて、わずかな時間水場で泳ぎまわる。
そしてまたしばらくすると、もとの瓶にもどされる。

慎ましい生活の中、夢をいだく少女と金魚がリンクする。


映画のなかで語られるセリフがいい。
「行くあてはないけど、ここにはいたくない。」

イギリスらしい何かそこにROCKを感じる言葉に惹きつけられる。


自分自身を解き放つ月。
5月はそんな月かもしれない。




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女優、ドミニク・サンダ。
1969年に公開された映画「やさしい女」には当時17歳の彼女が映しだされている。それは時間を超えて言葉では表現できない愁いのある演技だった。

ドフトエフスキーの原作をもとに舞台をロシアからパリに移して制作された作品は、1986年に日本で公開されている。それ以降ほとんど上映されなかったというこの作品が、今回デジタル・リマスター版で劇場公開されている。

質屋を営む主人と客として通っていた若い女性の不確かな結婚生活。
果物のように繊細な心の葛藤と、男女のもつ磁力の違いが物語を覆っている。

妻を亡くした夫の懐疑的な語りが戻らない時間をふりかえる。
言葉を発することもなく、命を落としてベッドに横たわる主人公の横顔が、何にも増して美しさを漂わせていた。




▲⭐️img408

ベルンハルト・シュリンク作「朗読者」。
第二次大戦後のベルリンを舞台にした物語である。
2008年に「愛を読むひと」という邦題で映画化された。

本を読んできかせる、それはおとなが子どもに対して行うことだと思うひとが多いかもしれない。
この物語では青年が大人の女性のために本を読むという行為がテーマとなり、やがてはそれぞれの人生に関わることになる。

自分にとってプラスになること、マイナスになること、それらを私達は無意識のうちに選別し生きている。善悪の区別もできる。
しかし戦時下において誰もがそうした普通の意識で冷静に自分を見つめていられたのだろうか。

主人公の女性に備わったものは数少なく、世界は歪んだ状況下のなかにあった。
そして欠如していたものの代償はあまりにも残酷で背負うには重過ぎた。

クラクフ収容所で主人公ハンナが遭遇した悲惨な出来事は裁判を通して克明に語られる。
裁判官の問い詰めにたいしてハンナがひと言問いを投げかける。
「あなたならどうしましたか」
口ごもる裁判官の戸惑いに理屈では解決できない当時の様子がうかがえる。
それは同時に私達にも同じ質問が問いかけられている気がした。

「本」という崇高な存在がハンナの運命に寄りかかる。
映画では投獄され年老いた主人公の半生をケイト・ウインスレッドが見事に演じていた。

このストーリーが秀逸なのは戦争がもたらした悲劇だけではなく、どのようなかたちであれ愛情に包まれ、慕う尊さをえがいていることにある。

自転車で田舎道を走る恋人たちの光景。
女性らしいワンピースを着たハンナ。
陽の光をあびて映しだされる、かけがえのないひと夏の想い出が何よりも美しい。





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夏の移ろい。蝉の鳴く声に氷の溶ける音。
時間とは無関係に止まり、また行き過ぎる。

2002年のスペイン映画『トーク・トゥ・ハー』。

物語の中で収監された男がキューバの話をするセリフがある。
「窓から身を乗りだし、時が過ぎるのを見つめるだけ。」
「何も訪れない。」
「あの女は僕そのものだ。」
無力感と余韻がまわりを包みこむ。男は自らの運命を悟ったように友人にこう呟く。

自分もハンガリーの田舎町で同じような情景に出会ったことがある。
その年配の女性は私がそこを通りかかる前から窓際で外を見つめていた。
一枚だけ写真を撮らせてもらった。
もの珍らしい東洋人がカメラを片手に通りかかるのを少し気にかけたようだが、わずかに微笑みかけたあとまた静かに遠くを見つめていた。

『トーク・トゥ・ハー』に登場するふたりの女性。
そこには生と死という舞台と共に「止まった時間」が重要な鍵として描かれている。

夏の窓は時間の扉なのかもしれない。



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アイルランド、そしてアメリカが舞台の実話をもとにした映画である。

引き離された母と子、クリスチャンである女性と正義を貫こうとする男性、ふたつの国とふたりの目的。
物語は細い一本の糸をたぐり寄せるように綴られる。
そしてその糸の端は意外な結末へと導かれることになる・・・。

この映画で印象に残るのは、寛容な姿勢と意志のバランスだ。
いくつかのシーンでこのバランスが問われるが、そのたびに主人公は見事に自分としての判断を下している。

ひとりの生命が背負う時間は決して永くはない。
遠からず自分達もいつの日か死を見つめて家族を想い、何処か精神的な糸口を求めるのかも知れない。

ラストに描かれる雪景色のアイルランドがとりわけ美しい。



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過去に「旅芸人の記録」という4時間あまりの映画を岩波ホールで観た。

1930年代から50年代のギリシャ戦時下を舞台にした旅芸人一座の物語だ。上映時間が長かったため、映画では珍しく途中で休憩時間があった。

長いセリフと固定されたカメラアングルが印象的で、ギリシャの近代史を重厚に語る映画だった。
「旅芸人」という存在に惹かれるのは、時代に寄り添いながら、旅を続けては支え合って生きる人々を想像するからだろうか。


この映画を思い浮かべたのは、テレビから流れたクラシックの1曲からだった。
ショスタコーヴィチのジャズ組曲第2番 第6曲 第2ワルツ。
サーカスや大道芸を表現する際にこれほど雰囲気のあう曲はないかもしれない。
土ぼこりの道を進む旅芸人の悲哀と強さを感じさせる曲だ。


ショスタコーヴィチはロシアの作曲家だが、自ら戦争という狭間に生きた苦悩があったからこそ、こうした美しい作品を残せたのかも知れない。

移り行く3月。年度末の忙しい日々が行き過ぎる。



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ジュリー・アンドリュースが出演した映画「メリーポピンズ」。そのなかに出てくる長い魔法の呪文がある。


“スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドゥーシャス”


呪文だから意味はわからないが、こどもの頃に暗記したこの言葉を今も忘れないでいるというのは、魔法だからだろうか。



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10年以上前に見た記憶があるこの映画を先日DVDで久々に見た。1948年の映画である。

ニューヨークに住む売れない画家。
目の前に突然現れた少女が、わずかな年月でおとなの美しい女性に変貌する。
既にこの世にはいないその女性は画家の幻想として度々現れる。
そして画家はその女性をモデルに一枚の絵を描く・・・。

モノクロームで映し出される何とも不思議な雰囲気の物語だが、主人公の画家がカンバスに向かい、その前でモデルになるジェニーが静かにポーズをとるシーンが印象的だ。

小磯良平氏が描いた絵に共通する清楚な空気感。
凛とした女性の姿は優しい光に包まれている。
そしてこの肖像画が、消えて失われる存在とは対象的に永く残されることになる。


どんな絵画にも物語が隠されているように、無言のままこの絵は私達に語りかける。



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