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 【No.90】未完成  2017/02/13 (Mon)
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完成されていない作品。

それらは私たちの前に現れることは稀だが、
作家によっては数多くの作品が未完で残されている。


ミケランジェロの「ピエタ」は4点が現存しているが、
その中の3点は未完で終わっている。
これは何を意味しているのか。


作家は無論、作品を完成させることに心血を注ぎのぞんでいる。
ただそこには終わりがないというロジックもある。

「未だ何かが足りない、未だ何かを削れる。」
こうした葛藤が続く限り、作品が完成をみることはない。

作品に付きまとう終わりのない旅。
その旅の終わりは作家自身にしか計ることはできない。



私たちの前に残された未完の作品たち。
未完ゆえに表現される戸惑いと強さ。

そこには簡単に読み解くことのできない、
作品自身が放つ本質があるような気がする。




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フィギュアスケートの競技に「アイスダンス」がある。

シングルの競技ばかりが注目されがちだが、ふとしたきっかけで見たアイスダンス上位ペアの演技に目を奪われた。

ふたりが同時に滑りながら回転するツイズル、頭上高く持ち上げるリフト。
そこにあったのは「舞う彫刻」のようだった。


エドガー・ドガが言った言葉を思い返す。

「踊り子そのものを描こうなどとは、ついぞ考えたことはなかった。
興味は彼女たちの動きを表現することと、美しい衣装を描くことだった。」


写真の世界で動きの表現は、何千分の一秒という最新のカメラをもってすれば動きを止めて撮ることは容易いことだが、それだけではない気がする。

光、感情、ポーズ、アングル、温度、スピード、それらが一体となった対象を捉えなければ、動きの表現には到達しない。


アイスダンスと動きの表現、それには究極のツイズルが必要なのかもしれない。





 【No.62】建築作品  2015/09/27 (Sun)
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これまで建築を「作品」と呼ぶ建築家に抵抗があった。
建築というのは依頼主からの要請を受けて成立する仕事であって、建築家の作品としては独自性が乏しいのではないかという疑念が自分にはあったからだ。

先日、目黒美術館で「村野藤吾の建築 -模型が語る豊饒な世界」を見てからは少し考え方が変わった。

ひとりの建築家が携わった数多くの建築。
そしてそれらを具現化した精巧な模型。
確かにそこには数多くの依頼主が存在し、半世紀以上という年月の痕跡が垣間見れる。

展示を見てそこに発見できるのは依頼主の意向や名称を超えて村野藤吾そのひと、そして作品が存在している気がした。

建物は「使われる」ことを前提としてこの世に生み出される。

当然として使う人の要望が随所に盛り込まれ、形にも影響を与える。ただそれらを具現化し、ひとつの「形」に積み上げるのは建築家自身だ。

美術館で手にした村野藤吾氏との対談をまとめた一冊の本に、村野氏自身の考え方を伺うことができる。


「数えられる数の間に、無数の数があるということに気がつく。0.1からたくさんある。もっともっと細かく微分することもできるでしょうね。それを探求していくこと、これが私はヒューマニズムだと思う。」
-村野藤吾「建築をつくる者のこころ」より-


村野氏は「ヒューマニズムとは、それを探求すること」と説明している。

村野藤吾氏が追い求めていたもの。
探求し残してきた蓄積。
それは「作品」という枠組みを超越して建物そのものが生み出す「空気感」を求めていた気がする。



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1861年、パリ サン・シュルピス教会の礼拝堂に3枚の壁画が完成する。
作者はウジェーヌ・ドラクロア。晩年の作品だ。

ドラクロアはこの大作を制作するため、徒歩で通える場所に移り住んだ。サンジェルマン・デ・プレ教会の裏手にある静かな住宅街。そしてその場所が7年間の「終の住処」となり、現在のドラクロア美術館に至る。

アトリエに面した中庭は四方に囲まれた小さな空間だが、季節を感じとるには十分な広さだ。
教会での仕事を終えてアトリエにもどったドラクロアは、ひとり中庭から空を見つめていただろうか。
ドラクロアの友人だったショパンはこのアトリエでよく作曲をしていたといわれている。

月のきれいな夜、ドラクロアは中庭でショパンのノクターンを聴いていたかもしれない。



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鏡に向かい自画像を描く。
それは自分に見える外面だけでなく、内面も見なければ絵にならない。ただ意図せずに内面が出てしまうのが自画像の面白さでもある。

ミュンヘンにある国立美術館アルテ・ピナコテーク。
印刷でしか見た事のないその絵に出会った時、絵というより画家その人に出会ったような気がしたのを覚えている。
1500年、アルブレヒト・デューラーが描いた自画像は時をこえて作家のメッセージが響く1枚だ。

正面を向いた構図からはキリストの陰影が映しだされる。
自分の肖像に他の像を重ねることでもう一人の自分を描く。それは自分の単なる変身願望ではなく、表現することそのものへの挑戦だったのかもしれない。

まだ写真や、ましてや写真加工など全くなかった時代に、複雑な心境の変化を一枚の絵に込めようとしたデューラーの想い。
500年が過ぎた今、残された作品が見るものの心境を揺さぶっていることなど作家自身予期していなかったことだろう。

ミュンヘンで出会った一人の画家は、その瞳の奥に輝く言葉を携えていた。

今から更に500年後の世界。デューラーは誰と会話しているのだろうか。




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夏になるとソフトクリームが食べたくなる。
甘くて冷んやりしたその口当たりと、先端に向かって輪が閉じていく造形。
そして口金から成形される角のあるクリーム。
バベルの塔が魅力的なのは同様の造形だからだろうか。

そもそも旧約聖書に登場する「バベルの塔」は、1563年のブリューゲル作品から私達の記憶に刷り込まれている。
山間の谷の向こう側にそびえるバベルの塔は、高さはそれほどでもないが塔としては妙にリアルに描かれていて、周りに配置された人々の様子に興味を抱かせる。
天に届く塔という空想が紀元前から今に伝えられている一枚だ。

細密画を得意としたブリューゲルだが、なかでも「雪中の狩人」は秀逸だ。
美術の教科書に載っていたその絵をウィーン美術史美術館でしばらく食い入るように見た記憶がある。

コンビニエンスショップで買ったバベルの塔は、5分もしないうちに何処かへ消えてしまった。



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1903年、パリ右岸、北西に位置する高級住宅街に世界初の個人美術館が開館した。
ギュスタブ・モロー美術館である。

作家が生きていた時には、自宅兼アトリエ、そして絵画教室としてジョルジュ・ルオー、アンリ・マティスなど名だたる作家がこの場所から育っていった。
作家の死後、遺贈された建物と内部の一切を美術館として開館することになる。

建物の3階から続く独特なデザインの螺旋階段を上がると、そこには作家の作品のほか窓際に多数のデッサンがファイルされている。
私達が館内で目にするのは所狭しと飾られた油彩の作品だが、これらデッサンの一群にも注目したい。油彩の下絵となったものからスケッチとして完成しているものまで、絵画の過程と作家の軌跡が見てとれる。

新しい歴史画と象徴主義の道を切りひらいたモローだが、その一方では美術学校の教鞭をとり、生徒達により多くのデッサンを描くよう奨励したという。絵画の理想を語る在りし日のモロー教授に出会いたかった気がする。

美術館を出たあと、ふとモローの書斎にあった本棚の蔵書や小さな彫像を思い返した。
モローの本質を解く鍵は、そんな場所にしまわれているのかもしれない。




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ブールデル美術館はパリのモンパルナス駅にほど近い一画にある。


彫刻家アントワーヌ・ブールデル。
ロダンと同時代に生きたフランスの彫刻家だ。

その名前を知らない人もいるかもしれないが男が力強く片ひざをつき弓をひいている「弓を引くヘラクレス」の作者といえば思いうかべる人も多いだろう。

美術館は作家の住まいとアトリエだった場所に建てられている。
アトリエは奥まった位置の庭に面した場所にあり、ブールデル自身が制作していた当時のまま残されている。
一見、時代をさかのぼって迷い込んだ雰囲気に包まれる。

雑然としたアトリエには、作家特有の力強い作品とは異なる愁い顔の女性像も置かれていた。その少し暗がりの中に安置された作品に何故か心を動かされるのは、アトリエに満たされた空気感と作品の放つリアリティに起因しているからだろうか。


もしモンパルナスへ行った折には、ぜひこの1900年代初期の空間を訪れてもらいたい。


そこには偉大な彫刻家の強さと優しさが刻まれている。



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ルーブル美術館には2点のフェルメール作品がある。
しかも日本での行列が嘘のように間近でゆったりと鑑賞できる。


「天文学者」と「レースを編む女」。
モナリザ人気の影にひっそりと隠れているかのようにリシュリュー翼のオランダ絵画群に交じっている。

「レースを編む女」は20センチ前後の小さな作品。
フェルメール作品ではお馴染みの窓を取り入れた内観構図ではなく、レース糸とそれを編む女性の一場面を切り取った構図だ。
手前に下がる繊細な赤と白の糸が画面全体にアクセントを添えている。
スクエアな年代を感じさせる額縁も絵と一体化していて美しい。


この小さな宝石のような作品に出会うためにまたルーブルへ行きたくなる。




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