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あなたの声が聴きたくて

とぎれとぎれに雑音の中

ダイヤルに神経をこめた

遠くて淡い記憶のカケラ






 【No.230】箱の虫  2019/10/06 (Sun)
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仕切られた小さな箱で

一夜を明かす人たちがいる


誰に迷惑をかけるでもなく

ひとりその日に終わりを告げる


雨は止んだだろうか

箱の中からはわからない


小さな虫が箱の中へ迷い込む

両手で静かに外へ逃がす



迷い込んだ虫のように

誰かが自分を外へ連れ出してくれないだろうか

そんな有り得ないことを思う


無音の箱の中で

時計の針だけが翌日になる

各駅停車で遠くへ旅をしている夢をみた



その日 雨は明け方まで降り続いた





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いつか翼が折れたら

草むらで蘇る夢をみよう


誰も助けてはくれない

空にも 陸にも

味方などいないから


それでも風を受けながら

今日も飛び続ける


それが自分だから

それが生きることだから




 【No.228】落葉  2019/09/19 (Thu)
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遠くへ行ってみたいと誰かが言った

ほかの誰かが遠くは嫌だと言った

うつむきながら黙っているものもいた


ふいに強い風がふいて

皆んな方々へ飛ばされた


それぞれの願いは叶ったのか

誰も知るものはいない


思えばそれが秋の知らせだった





 【No.227】小径  2019/09/13 (Fri)
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あなたは忘れてしまったかも知れないけれど

まだそれぞれの生き方を探していた頃

この小径をふたりで歩いたことがありましたね


友人のお見舞いに行った帰り道

あなたは自分の将来について夢中で話していました

今にして思うとあの頃の自分はボンヤリしていて

あなたの話をうわの空で聞いていた気がします

それでも肩ごしに漂うあなたの甘い髪の香りは

ずっと忘れずにいました



時のうつろいと運命は気まぐれですね

数十年後の自分はそれなりに年をとり

あなたは逞しい母となりました



昔観た映画のように

もう一度あの頃のあなたに会いたい気がしました



もどれない夏がまたひとつ去っていきます





 【No.226】白い一日  2019/09/04 (Wed)
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日曜の朝

目が覚めてまもなく
もう一度まぶたを閉じる

今日これからの予定を思い浮かべてみる

何もすることがない白い一日

そんなはずはないと自答する

こころに浮かんだモビールは
しっかりと空間の中に存在している

そしてその形は
一日のあるべき姿を示していた



起き上がって部屋の窓を開ける

こころのモビールに秋の風が触れた



mobile / Alexander Calder




 【No.225】Bonsoir  2019/08/26 (Mon)
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どんな日にも「暮れる」ときが訪れる

たとえ雨が降っていようと

どれほどの風が吹いていようと


そして私たちにも「暮れる」ときが訪れる

多くの富に恵まれていようと

あるいはその日暮らしをしていようと



空のカンバスにグラデーションがかかる頃

左岸の夕暮れに語りかける

今日という一日に感謝をこめて




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きみの微かな寝息が

家族の幸せを育んでいる

安らかな寝顔の中に

きみの夢が映しだされる

きみは家族に生かされ

家族はきみに生かされている


自分でも不思議なことだが

子守唄を覚えたいと思った

まだ言葉を発しない きみのために





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美しいひと 麗しい花

それは名前など知らなくとも

そばにいるだけで心がなびく

ただ記憶に留めるには

名前を知りたくなる

何処かでまた会えるだろうか




Scabiosa スカビオサ
Ranunculus ラナンキュラス
Viburnum ビバーナム



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あなたがいたから

長い道のりを歩いてこれた

共に歩み先立ったひとへ

ときおり話しかける

あなたと会えてよかった

そう思えることが

幸せに繋がっている


遠くを見つめる自分に

彼方から風がふく





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ひとしきり降った雨も
午後には何処かへ消えていった

数冊の本をむき出しで抱えたまま
大学生らしき若い女性が前を通りすぎる

今ではトートやリュックに詰めこむのが
普通だったからか
その女性の姿が珍しく感じられた


しばらくして近くのカフェに入ると
偶然 先ほどの女性が外に面した席で
本を読んでいた

少し離れた席で私はコーヒーを注文した

5分ほど経ったころだろうか
私の目に意外な彼女の表情が映る


泣いていた
彼女は本を読みながら確かに
泣いている様子だった

何故かその光景が
脳裏に焼きついて離れなかった

本を読み涙する横顔

確かにそれは
特段に珍しい姿ではないかもしれない

ただ今の時代 パソコンや携帯電話を見つめて
涙している姿を見ることはほぼない

やはりそれは本を読むということからくる
感受性なのだろうか


そういえば自分も本を読んで泣いたことがあった
もう数十年前のことだ

感受性の高い若かりし日
一冊の本から受ける感動は計り知れない


本であれ音楽であれ
誰もが得られる感動との出会い

最も大切にしたいものが
色あせていく気がしてならない




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明治20年(1887年)

東京では市川團十郎が明治天皇の前で
「勧進帳」を演じていた

同じ年 モスクワではボリショイ劇場バレエ団が
「白鳥の湖」を演じている 初演だった

東の歌舞伎と西のバレエ
観客は弁慶やオデットなど主役たちの演技に魅了され
その日の余韻を楽しんでいたのだろうか


残念ながら「白鳥の湖」は
初演当時メンバーに恵まれず
さほど評価はされなかったという

ただバレエのイメージと言えば
この作品を思い浮かべるひとも多いことだろう

今ではチャイコフスキー作曲によるクラシックバレエで
「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」と共に
3大バレエともいわれる作品である


あらすじは割愛するが
この作品の魅力のひとつに
コール・ド・バレエといわれる
集団での一糸乱れぬ舞がある
水辺に浮かぶ白鳥たちの美しいシルエットが
幻想の世界へと私たちを誘ってくれる

そしてもう一つ
悲劇で終わるかハッピーエンドで終わるか
物語の終わりかたが演出家により異なるのも
この作品の魅力といえる

ただ何より大切なのは
主役を演じるエトワールの存在だというのは
言うまでもない


機会があれば皆さんも
白鳥の舞う湖へ入ってみてはいかがだろう
まずは片足から・・・



※ Le lac des cygnes -rappel de rideau-
L'Opéra de la Bastille paris 2019





 【No.219】粋  2019/07/08 (Mon)
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昭和のはじめ
まだ「粋」という言葉が
ひと伝いに言われていたころ

粋を貫いたひとりの女性がいた

市丸・江戸小歌市丸

芸者から歌手として多くのひとに愛され
1997年 90歳でこの世を去るも
最期まで芸と共に生きた

花街で賑わった柳橋
その一角に建てられた静かな家が
彼女の終の住処だった

二階に上がるとそこからは
隅田川がよく見える

悲しみに暮れたとき
誰かが恋しいとき
彼女はここからじっと
川を見つめていたに違いない


「もうすぐしたら花火でも見にいらっしゃい」

眼を閉じると
市丸姐さんの声が聴こえる気がした


彼女の愛した家は
佇まいも粋だった




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雨音が響いていた

深夜25時

瞼を閉じ今日という日を思い返す

こころの絞りを開放にして

脳裏に長時間露光する

明日の朝 何かが写し出されているだろうか



翌朝 目が覚めるとその画像は真白だった

こころの絞りを開け過ぎたからだろう

次回は露出計が必要な気がした



“Stereo Block Notes” stereoscopic camera, 1904





 【No.217】鳥の眼  2019/06/23 (Sun)
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ドローンで撮られた空中からの映像は
私たちの視覚では捉えることのできない
素晴らしい画像を提供してくれる

「鳥の眼」は人としての憧れである

もし自分が空を飛べて
自らの眼でいろんな対象を見る事ができたら
それはどんなに感動的なことだろう


1783年 空気より軽い気体を大きな風船に詰め込んだ
「熱気球」で初めて有人飛行に成功した
フランスのモンゴルフィエ兄弟


彼らはその時「鳥の眼」を得たと確信したに違いない


230年以上経過した今
私たちは進化した飛ぶカメラを使い
更なる「鳥の眼」に近づけたのだろうか

残念ながらそれは「レンズの眼」を通した映像で
私たちが自由に空を飛び 見た映像ではない


あと200年後にはそれも可能になるだろうか


未来の博物館には
「200年前 まだ私たちが自由に空中を移動できなかった頃
こんな玩具を使った映像を見るしかありませんでした」
そんなドローンの展示があるかもしれない




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印刷屋
そんな言葉を聞かなくなった

昔は「○○印刷」という店が
かならず街の何処かにあって
チラシや名刺なんかを作っていた


その昔は活版印刷というのがあり
小さな活字ハンコを沢山組み合わせて
印刷を行なっていた

その後は技術も様変わりし
オフセット印刷の時代へ

そして今ではデジタル印刷が
普通の時代となった


形のある印刷から
形のない印刷の時代へ


写真も同じ運命をたどっているが
何故か形のあるものに惹かれていく

それは使い込まれた鉄の塊に
汗や魂が染み込んでいるからだろうか


時代の波に呑みこまれながら
消えゆくものたち


その煌めきは記憶のなかに生き続けている





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暮れかかる街にシャボン玉が飛ぶ
虹色の光が目の前を通過する


Un deux trois

一つめは過ぎ去った想い出

二つめはまだ見ぬ夢

三つめは・・・
声を出さずこころに想い浮かべる


それはあっという間に
何処かへ消えていった





 【No.214】記憶の糸  2019/06/02 (Sun)
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自分の記憶をどこまで辿れるだろうか
それはひとによって様々だろうが
そのとき感じた感触や瞳に映った光景は
数十年が経った今も記憶の引き出しに仕舞われている


高校時代の親友から何年かぶりに連絡をもらった

数ヵ月前に父親が亡くなったこと
自分の新しい仕事のこと
もうすぐ引越しをすること

それらは近況報告として
いろんな苦労を感じさせることばかりだった

ひととおり話終えたあと
友人から意外な誘いがあった

それはまだ何年か先のことだけど
と前置きをして
定年をむかえたら一緒にフランス料理を食べに行きたい
自分がご馳走したいというものだった

その店の名前は確かに聞き覚えのある店だった
どうしてそんなことを思い立ったのか
皆目見当もつかなかったが
友人はかなり前から考えていたらしい


「はじめて自分の就職が決まったとき、
お前にご馳走してもらったのを覚えてるか。
同じ店で今度は俺がお前の何年か後の
定年祝いにご馳走をしたいんだ。」


記憶の糸が解かれていく

数十年も前の光景が脳裏をよぎる
まだ社会人として駆け出しの頃だった

かなり背伸びをして
当時腕を振るっていたシェフのフランス料理店へ
ふたりで出かけた


そのときどんな話をしたのか
料理がどうだったのか
今となっては記憶もあいまいだが
ふたりとも満足して
互いの将来について話し込んだ気がする


そんな忘れかけていた記憶に
お礼がしたいと言ってくれた友

そのことがただ嬉しかった
気恥かしさの底に熱い何かを感じた


あの頃も同じ紫陽花の季節だった





 【No.213】三姉妹  2019/05/27 (Mon)
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それはまだ王様がいた頃のお話

王妃には三姉妹の女官が仕えていました

長女の女官は責任感が強く歌が得意でした

次女の女官はもの静かで人見知りでした

三女の女官はとても勝気で負けず嫌いでした


ある寒い朝のこと

城を大勢の敵が取り囲みました

王妃は三姉妹の女官たちに共に逃げるよう伝えます

長女はすぐさま身仕度を整えました

次女も長女に従い僅かな荷物をまとめました

三女だけは城に残ると言い張り聞き入れませんでした

時が経ちやがて敵が城へ攻め入ると

長女の女官は王妃にこう伝えます

王妃さま ここでお別れです

もう時間がありません すぐさまお逃げください

私たちはここへ残ります

王妃は他の女官たちを連れて城外へと向かいました



それから三姉妹の女官たちがどうなったのか

行方を知るひとは誰もいませんでした


数年後


街の片隅に小さな料理店が開店します

そこには三姉妹の姿がありました

料理は次女 提供は三女 経営は長女の役割でした

あるとき長女はふたりに言いました

あのとき一緒に逃げていたら今頃どうなっていたかねえ

王妃共々皆が捕まって牢獄へ入れられたそうよ

次女が答えました

あのとき三人で調理場へ行って隠れたから生き延びたのよ

人に焼かれる前に自分たちからオーブンに入ったんだから

三女は自慢気に言いました




三姉妹のその後を伝えるものは何もありません

ただ店は残された家族により代々引き継がれ

店の奥には三姉妹の人形が飾られていました





 【No.212】終着駅  2019/05/23 (Thu)
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起点があればそこには必ず終点がある

途中どんな素晴らしい経験をしようと

遠ざかる景色をただじっと見ていようと

列車はいつしか終着駅へとたどり着く

朝に下車した学生

夕暮れに乗り込んだ老夫婦

長い旅では乗り合う人たちも入れかわる

そして終着駅では誰もが席をあとにする



ひとは幾度こうして旅に向かうのか

新たな出会いを求め

時の揺りかごに乗って



Gare Saint-Lazare / paris





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