【No.246】 Rue du Montparnasse -芸術家たちの在りし日- | 2020/04/14 (Tue) |

いまから100年前
それはさほど遠い日の話ではない
私たちの祖父母が生きて活躍していた頃
モンパルナスに続くこの道を
芸術に明日の希望を夢見た画家、彫刻家、小説家、詩人、作曲家など
数多くの人びとが往来していた
まさに芸術の太陽がパリだけを照らしていた頃である
しかし時代は残酷にも
戦争という大きな流れにのみこまれ
多くの芸術家がこの場所を去っていった
在りし日の面影だけを残して
時は流れ街も移り変わる
よき時代にこの地で生まれた多くの作品だけが
今も私たちに語りかけてくれる
モンパルナスで生きたひとりの画家が
こんな言葉を残している
「必ず絵には永久に生きてる魂があると思います」
-レオナール・フジタ-
2020年
戦争とは別の戦いで多くの隣人を失っている私たち
「アーティストは(社会にとって)不可欠であるだけでなく、
とりわけ今は、生きるために欠かせない存在だ」
ドイツ・グリュッタース大臣のメッセージが心に響く
「生き続けること」を考えさせられる日々が続いている
【No.245】静寂 -Le Silence- | 2020/04/03 (Fri) |

街から人びとが消え
静寂に包まれるとき
君は悲しんでいるか
昨日を顧みているか
明日を夢見ているか
心の声が木霊する
人は愚かな一面もあるが
支えあう強い一面もある
いま一度現実と向き合うこと
何かを変えていくことが
求められている
そして希望はある
-すべての人には、幸せに生きる、使命があります。だから、すべての人を幸せにする、義務があります。-
Maria Skłodowska-Curie
【No.244】至福 -shifuku- | 2020/03/22 (Sun) |

あなたにとって至福とはどんなときだろう
仕事を終えたあとの一杯
目標にしていた距離を完走できたとき
欲しかったものが手に入り包みを開けるとき
休日の何もしないひととき
それぞれの想いが至福にいたる過程
ひとによって違いもあるだろうが
それは困難なほど得られるものも大きい
いま世界が抱える大きな病いが
終息をむかえる頃
普通の生活が至福に思えるときが
一日も早く来ることを祈る
【No.243】消えた時間 | 2020/03/14 (Sat) |

自分の過去を振り返るとき
どれほどの時間を思い出せるだろうか
幼かった頃の通学路で見た夕刻
友人たちと過ごした青い時間
海外の知らない場所をひとり彷徨ったとき
母親が亡くなったと聞いたとき
瞼を閉じれば
一握りの邂逅が頭をよぎる
そしてその水面の下には
忘れ去った途方もない時間がある
消えた時間とこれからの時間
時計は行き来を繰り返す自分に
何かを語りかける
【No.242】Le poids -重さ- | 2020/03/01 (Sun) |

私たちが生きている間は
体重という重さを意識して
毎日をおくっている
太ったり痩せたり
自分の重さに一喜一憂しては
健康でいることを祈っている
昨年のことだった
親族の火葬に立ち会った際
人は灰になることで
重さを失うということを
改めて考えさせられた
いつの日か
自身が重さを失うその日まで
わずかでも記憶に残る
重みのある作品を残せたらと思う
【No.241】朝陽 | 2020/02/10 (Mon) |

朝陽が音もなく
生きとし生けるものへ
安らかな温もりを届ける
それは今生まれたものや
年老いて風化するもの
全てに優しく降りそそぐ
俯いていた足元のクローバーが
陽に向かって微笑みはじめる
【No.240】Hommage à Yuzo Saeki | 2020/01/26 (Sun) |

Bonjour Monsieur
あなたがいた頃のパリとは
随分と街も変わりました。
たぶん今のパリを見たら、
そのきれいに様変わりした風景に
驚かれると思います。
あなたが作品に描かれた広告ポスターが集まった壁面も、
今では殆どその姿を見なくなりました。
パリらしさが少なくなるというのはとても残念です。
先日、小雨のマレ地区を歩いていた際に
懐かしいポスターの壁面を見つけました。
ふとあなたのことが思い浮かび、
写真を撮りました。
ポスターもあなたが描いた頃とは変わっていることでしょう。
ただどんな時代であっても広告は時代の鏡のような、
そんな気がします。
あなたの描いた広告の文字が、絵柄が、見て描いた時代の温度が
絵を通して今も語りかけてくれます。
移り変わるもの、消え去るもの、それら全ては
ひとの姿やこころと同じなのだということかもしれません。
作家人生の大半をパリで過ごしたあなたが、
たとえ短くともその燃える魂をパリに捧げたことを、
100年後に生きている私は誇らしく想っています。
※ 佐伯祐三、画家。
1928年、30歳にしてパリでこの世を去る。
【No.239】Smile | 2020/01/14 (Tue) |

毛糸で編んだマフラーを首に巻き
普段は見ない本屋のコーナーで時間をつぶす
新しい年の休日は
習慣にも僅かな変化をもたらしてくれる
午後3時 花屋前での待ち合わせ
イヤホンからナット・キング・コールの
「Smile」が流れる
今の自分は疲れた顔をしていないだろうか
花に向かって微笑んでみた
【No.238】冬の華 | 2020/01/05 (Sun) |

年の若かった頃は
「花の写真」というものに抵抗があった。
大御所と呼ばれる写真家がクローズアップの
花の写真を発表するのを見る度に、
またかと思っていた。
自分が若いとは言えない年代になると
その理由がわかる気もしてきた。
花には刺激がない。
若い頃は花よりもっと刺激的なものに
目が行くのは当然のことだろう。
じっと花を凝視することなど
その頃には考えも及ばなかった。
花の写真で一番印象に残っているのは
R・メープルソープの作品だろうか。
花と光を描いた官能的ともいえる彼の作品は
長い時間、残像が頭から離れなかった。
冬のパリで出会ったシクラメン。
冬ならではの
そこに静かな「華」を感じた。
【No.237】sign | 2019/12/17 (Tue) |

兆候というサインに
自然の変異を感じとる動物たち
そこには私たちが失った
本能的な能力がある
セーヌに揺れる光
それは環境のバランスを見失うものたちへ
静かに告げられた
何者かのサインのようにも見える
【No.236】木々の向こうに | 2019/12/09 (Mon) |

冬の空を見上げると
そこには裸になった木々たち
太陽に向かい葉を開き
育んだ様子が枝から伺える
ふと自分を振りかえると
自分にも生きた痕跡があるだろうか
長く生きた痕跡 何かを成し遂げた痕跡
答えは見つからない
時が経てばここへも春がくる
旅することができない木々たちには
新緑という愛が待っている
【No.235】夕暮れのトランペット | 2019/12/01 (Sun) |

街がひととき静けさにつつまれ
空の明るさに翳りが訪れるころ
その音色は何処からともなく響きわたる
アパルトマンの部屋からか
それとも近くの公園からだろうか
トランペットの音色が
旅人たちの今日に別れを告げる
【No.234】ポンヌフの風 | 2019/11/17 (Sun) |

遠い国から来たきみに
何を伝えてあげれただろうか
過ぎゆくきみに風が寄り添う
ふたたび会える日はくるだろうか
遥か空の向うから
ポンヌフに新たな風が舞い降りる
【No.233】Saint-Germain-des-Prés | 2019/11/09 (Sat) |

きみには見えるだろうか
ボーヴォワールの面影が
きみには聴こえるだろうか
左岸を彷徨う異邦人の唄が
きみには届くだろうか
熱いショコラショーの香りが
この場所を目指し
この場所へ還る
サンジェルマン・デ・プレ
悠久の時と夢の狭間で
【No.232】Message -写真と絵画- | 2019/10/27 (Sun) |

写真のような絵画
絵画のような写真
これまでの歴史を振り返ると
写真でしか表せないもの
絵画でしか描けないものが好まれてきた
どちらかに近づきすぎると
近づいている核心に取り込まれてしまうからか
目に映ったもの 頭に浮かんだものを留めておきたい
絵画も写真も同じような目的から始まった
それが時代を経てジャンルが確立すると
絵画とは 写真とはという境界を守るひとが現れる
番人たちはこうあるべきという作例を得意に見せつけた
大きな変遷のない絵画の技術に対して
今の写真を支える技術は著しく変化を続けている
デジタル加工された写真は限りなく絵画に近づき
見ただけでは判別できない作品で溢れている
写真と絵画
メッセージはどんな表現であろうと存在している
どちら側に立とうと
こころを動かす作品を大切にしたい
【No.230】箱の虫 | 2019/10/06 (Sun) |

仕切られた小さな箱で
一夜を明かす人たちがいる
誰に迷惑をかけるでもなく
ひとりその日に終わりを告げる
雨は止んだだろうか
箱の中からはわからない
小さな虫が箱の中へ迷い込む
両手で静かに外へ逃がす
迷い込んだ虫のように
誰かが自分を外へ連れ出してくれないだろうか
そんな有り得ないことを思う
無音の箱の中で
時計の針だけが翌日になる
各駅停車で遠くへ旅をしている夢をみた
その日 雨は明け方まで降り続いた
【No.229】雀 -sparrow- | 2019/09/29 (Sun) |

いつか翼が折れたら
草むらで蘇る夢をみよう
誰も助けてはくれない
空にも 陸にも
味方などいないから
それでも風を受けながら
今日も飛び続ける
それが自分だから
それが生きることだから
【No.228】落葉 | 2019/09/19 (Thu) |

遠くへ行ってみたいと誰かが言った
ほかの誰かが遠くは嫌だと言った
うつむきながら黙っているものもいた
ふいに強い風がふいて
皆んな方々へ飛ばされた
それぞれの願いは叶ったのか
誰も知るものはいない
思えばそれが秋の知らせだった
【No.227】小径 | 2019/09/13 (Fri) |

あなたは忘れてしまったかも知れないけれど
まだそれぞれの生き方を探していた頃
この小径をふたりで歩いたことがありましたね
友人のお見舞いに行った帰り道
あなたは自分の将来について夢中で話していました
今にして思うとあの頃の自分はボンヤリしていて
あなたの話をうわの空で聞いていた気がします
それでも肩ごしに漂うあなたの甘い髪の香りは
ずっと忘れずにいました
時のうつろいと運命は気まぐれですね
数十年後の自分はそれなりに年をとり
あなたは逞しい母となりました
昔観た映画のように
もう一度あの頃のあなたに会いたい気がしました
もどれない夏がまたひとつ去っていきます